関連カテゴリ: 記事, 今日の注目記事, パラトラトーク2025, パラトライアスロン — 公開: 2025年6月23日 at 10:47 PM — 更新: 2025年6月23日 at 10:49 PM

雨の観戦路で見つけた「関わり方」――ディスレクシアの私が出会った、パラトライアスロンの世界

知り・知らせるポイントを100文字で

2025年5月17日、あいにくの雨空のなか「ワールドトライアスロンパラシリーズ横浜2025」が行われた。鴨下琳斗(りんと)さんは、読み書きに困難があるディスレクシアの当事者だ。スイマーでもある鴨下さんならではの横浜パラトライアスロン取材体験を紹介します。

6時10分に集合した、子どもカメラマンたち。左橋が鴨下さん 写真・PARAPHOTO 山下元気

「前日の取材ワークショップでは、何を聞けばいいのか正直よくわかりませんでした。『準備』って言われても、実感がなかったんです」

初めて見るパラスポーツの大会。現地に行けば何かが見えてくるかもしれない──そんな思いで、早朝6時すぎ、ホテル前に集合した。

移動の壁、情報の壁。「雨の中、ぐるぐる迷っていました」

観戦当日、最初にぶつかったのは「移動」と「情報」の困難さだった。

「会場は広くて、音声の案内もあまり届かない。地図もピンと来ないし、AirPods Proでチャット通知を読んでやっと把握できるくらい。ディスレクシアの自分には、視覚的な案内がとにかくわかりにくかったです」

山下公園の観戦エリアには段差や傾斜のある芝生が多く、車いすで移動する人たちと一緒のルート探しは一苦労だった。

「みんなで力を合わせて進んだけど、結局、レースが始まっても、選手が見える場所にはたどり着けませんでした」


観戦者のバリアフリー、もっと想像してほしい

選手を間近で見られない──その原因の一つは、沿道に設置された広告の幕だった。

「立ってる人なら見えるけど、車いすの高さからはまったく見えないんです。大会側は、車いすの観戦者の存在をそもそも想定してなかったのでは?」

スイムスタート付近。子どもカメラマン取材チームと行動した濱田美穂選手が車いすから撮影

選手への配慮はされている。でも、「観る側」には届いていない。鴨下さんはそう感じた。

「スタッフのほとんどが健常者で、障害のある観戦者への対応は準備されていないように見えました。自分だったらもっとこうするのに……そう思う場面がいくつもありました」


印象に残ったのは「タンデムバイクの迫力」

そんな中でも、強く印象に残ったのが、視覚障害の選手が後ろに乗る「タンデムバイク」だった。

「あんな大きな自転車、初めて見ました。車いすや義足の選手は知ってたけど、2人で息を合わせて走るって、すごい迫力でした」

6月17日、雨のなかのパラトライアスロン、バイクパート 写真・PARAPHOTO 山下元気

一方で、水泳パートは遠くて見えず、「どんな泳ぎをしていたのか想像するしかなかった」という。


「競う姿」より、「支えること」に惹かれた

レースは熱かった。選手も応援する人も、全力だった。でも、鴨下さんは少し違うところに関心が向いていた。

フィニッシュするPTVI(視覚障害)の樫木亮太(Sky/大阪)とガイドの寺澤光介 写真・PARAPHOTO 山下元気

「自分は順位やタイムにあまり興味がないタイプで、プロスポーツ観戦もふだんはしません。だけど、現場で見ているうちに“支える人になりたい”という気持ちが生まれました」

泳ぎが得意な鴨下さんは、「ライフガードやハンドラーのような水辺で支える人」として関わりたいという気持ちになった。


ふわっとした「もやもや」を大切にしたい

「障害って、(自分も含めて)見た目で分からない人も多いし、パラリンピックって、実はごく一部の人のものかもしれない……。そう思うと、ちょっともやっとします。でも、その“もやっと”が、自分にとって大事なんです」

わかりにくいこと、伝えにくいこと、それをそのまま「ある」として言葉にしようとする鴨下さん。その姿は、パラスポーツ取材者として見つめようとする確かなまなざしだった。

大会前日の6月16日、元町ベースキャンプでハイブリッドで開催された取材ワークショップに現地参加する琳斗さん(左) 写真・PARAPHOTO 山下元気

「関われる方法は、ひとつじゃない」

誰もが記者やカメラマンになる必要はない。でも、誰かの観戦に付き添う人、応援する人、給水所で水を渡す人、声を届ける人、マップを作ったり、案内する人──パラスポーツ大会に関わる方法は、いくつもある。

鴨下さんの「自分の得意な場所で、誰かを支える」という言葉に、未来のスポーツを楽しむヒントがあった。

(聞き手・編集 佐々木延江)

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